東京地方裁判所は、近時、誤抜歯を理由とする約930万円の損害賠償請求事件において、歯医者に約164万円の支払を命じた(原告一部勝訴)。
判決によれば、抜歯は歯に加えられる最終的な医療処置であり、可能な限り避けるべきだとし、抜歯を行なうことがやむをえない場合であっても、抜歯を行なう必要性について患者に対し十分な説明を行なう義務を歯科医は負う、 とした上で、本件では、抜歯回避の手段を尽くさず、かつ患者に対し抜歯の必要性を説明せずに、抜歯を行なったものと認められるから、不法行為が成立するとした。
この判示自体は常識に叶う。
問題は、患者に生じた損害として、インプラント手術費用約40万円、その他のインプラント関連費用約41万8千円を認めている点にある。なぜなら、インプラントは、健康保険の対象外であり、いわば贅沢品であるからである。この点、裁判所は、欠損歯の補綴にはブリッジ装着が一般であるとの歯医者側の主張を退けた。
法律的には、インプラントが誤抜歯に基づく相当因果関係の範囲内の損害といえるか疑問が残る。
しかし、歯科医院経営者には、改めて、抜歯時の慎重さと、それを欠いた場合には、損害賠償額が高額化していることを、再認識させる裁判例である。