2024-11-16
今回は、スキー場において発生する事故について、どのような場合にスキー場が法律上責任を負うことがあるかについて、いくつか事例を紹介しつつ概略を説明致します。
スキー場の管理者は、利用客が安全に滑走することができるようにゲレンデを整備し安全措置を施す必要があります。その内容としては、全国スキー安全対策協議会が制定した「スノースポーツ安全基準」の「第3章スキー場管理者の責務」が参考になります。
他方で、スキーやスノーボートは自然の斜面を滑走するスポーツである以上、ある程度の危険が伴い、スキー場の管理者がとれる対策にも限界があります。
そのため、上記のことを考慮に入れて、責任の有無を判断することになります。
まず、スキー場は冬季の限られた期間内において、限られた区域内のコースを提供していますので、その範囲外での事故については、以下の1、2の事例のように、原則、責任を負いません。
営業期間中のコース内においては、スキー場管理者にはゲレンデの状態に応じたコースの開閉、適切な情報提供、危険場所付近の注意表示等のほか、場合によっては③、④のように滑走者が転倒するリスクがあることも考慮した上で、相当の安全措置を施すことが求められており、それを怠った場合には、賠償責任が認められています。ただし、スキーヤー・スノーボーダーにも安全に滑走することが求められており、滑る速度、方向など滑走に落ち度がある場合には、「過失相殺」が適用され、認められる賠償額が減額されることになり、3、4の事例においても滑走者の過失が認められています。
事故に遭わないことが一番ですので、コースをよく見て、自分のレベルにあった適切なスピードで滑りましょう。
1.シーズン外滑走における事故
シーズン外において滑走していたスキーヤーがクレバス付近の雪が崩落したためクレバスに落下した事故が生じた事例です。この事例の控訴審の高等裁判所は、リフトを運航してスキーヤーを運送している以上は、スキー場を閉鎖して安全管理をしていないことを周知させる必要があるとし、事故現場付近のコースに閉鎖の表示をしていなかったスキー場側の過失を認めました(東京高裁昭和60年1月31日判決、東京高等裁判所民事判決時報36巻1・2号15頁)。しかしながら、上告審の最高裁判所は、スキー場管理者の過失はないとし、賠償責任を否定しました(最高裁第一小法廷平成2年11月8日判決、最高裁判所裁判集民事161号113頁)。スキー場閉鎖決定から10日以上経過した暖かい日であること、年間を通じて殆ど滑走を禁止していた急斜面であること、前方にクレバスが見えていたこと等を重視し、当時クレバス付近をスキーで滑降すれば危険なことは、危険の表示がなくてもスキーヤーが当然予知することができたことを理由としています。
2.コース外滑走時の雪崩事故
「バックカントリー」と称されている滑走禁止のコース外を滑走し、雪崩に巻き込まれた事故が生じ、スキー場側の土地の工作物責任(民法717条1項)が問われた事例においては、スキー場側の損害賠償責任が否定されています(長野地裁平成13年2月1日、判例タイムズ1180号259頁)。これは、スキー場側の営業許可の範囲外の場所であり、立入禁止標識など進入禁止措置を施しており、スキー場側の支配が及ばない場所である(「土地の工作物」に当たらない)ことを理由としております。
3.コース途中の橋の上での事故
次に、スキーヤーがスキー場のコース途中の橋を滑走中に転落防止用ネットの隙間から転落した事例についてです(東京高裁平成10年11月25日判決、判例タイムズ1016号119頁)。裁判所は、スキーヤーがバランスを崩し制御不能の滑走状態になる場合があることは避けられず、そのような事態にも対応し得る危険防止措置をとる必要があることを理由として、スキー場側の責任を認めました。他方で、スキーヤーにもコースの状況の変化に対応して、危険を回避するため、速度を落とすなどして技量に応じた無理のない滑走をし、危険個所を通過するように努めるべき注意義務があったとし、スキーヤーに6割の過失相殺をしました。
4.誤って別のコースに侵入した事故
最後は、初心者コースに隣接したモーグルコースに誤って侵入してしまった初心者のスノーボーダーがコブに着地した際に転倒してしまった事例を紹介します(東京地裁平成30年3月1日、ウエストロー・ジャパン2018WLJPCA03018002)。
モーグルコースがゲレンデマップに記載されていないこと、ネットやロープによる囲い等がなかったこと、コース侵入箇所に警告表示がなかったことなどから、安全性を欠くとしてスキー場側の損害賠償責任を認めています。他方で、スノーボーダーにも滑る方向、スピード管理につき落ち度があったとして7割の過失相殺がされています。
参照:「スノースポーツ安全基準」の「第3章スキー場管理者の責務」
http://www.nikokyo.or.jp/files/libs/155/202103111113246385.pdf
2024-11-12
Eメールやチャットなど、仕事上、「論理的な文章」を書くことを求められる場面は、多々あると思います。
とはいえ、具体的にどうすれば、文章は「論理的」になるのでしょうか。以下では、専ら文章の形式的な部分について考えてみます。
1 この点、単に自分の思考過程を全て書き連ねれば論理的な文章になる、というわけではありません。
なぜなら、人の思考は、あちらこちらに寄り道したり、突然インスパイアされたりするものであって、それらをそのまま書き連ねても、読み手からすれば、一貫性がない、論理の飛躍がある、といった印象を受けるからです。
それでは、読み手に対し、書き手の結論に至るまでの思考(論理構造)を明確に伝えるためには、どうすればよいのでしょうか。
2 結論として、私は、「一つの文に与える役割を明確にして、適切な接続詞を用いて文と文を繋ぐこと」を意識して文章を組み立てることが重要であると考えます。その理由は次の三つです。
(1) 一つ目の理由は、適切な接続詞を用いることにより、前後の文の関係性が明確になるからです。
例えば、「…である。なぜなら、…だからである」と記せば、結論と理由とのつながりが、誰が読んでも明らかになります。(次の段階として、論証として適切か、という問題が生じますが、本稿では実質的な部分には踏み込みません。)
(2) 二つ目の理由は、適切な接続詞を用いることにより、読み手に対してその後に来る文の性質を予告することができるからです。これによって、読み手に文と文との関係性を意識させながら読み進めさせることができます。
例えば、ある文の後、「しかし」とあれば、読み手には、これから直前の主張と対立する主張が来るのだな、と分かります。また、上記のように「例えば」とあれば、読み手には、これから直前の主張を具体例で説明しようとしているのだな、と分かります。
(3) 三つ目の理由は、文に与えられた役割が不明確だと、その文のうち、どの部分が前後の文とどのようにつながっているのかが分かりにくくなってしまうため、上記(1)、(2)の前提として、文に与える役割を明確にする必要があるからです。
かかる見地から、一つの文に与える役割は原則一つに絞った方がよいでしょうし、一つの文の長さはあまり長すぎない方がよいでしょう。
3 文の役割を明確にするうえでも、適切な接続詞を考えるうえでも、必要となるのは推敲です。
推敲を重ねていくうちに、文中に重複している表現がある、結論を導くためには不要な表現がある、前後の文の関係からして不適切な接続詞が使用されている、といったことに気づくことができます。
その結果、書き手にとっては愛着がある表現であっても、文章全体の論理一貫性のために削らなければないといった事態も生じるのですが、私などは、せっかく書いたのに削ってしまうのは忍びない、何とか残せないか、と頭をひねることも、しばしばです。
2024-11-06
1.医療機関からのお仕事の関係で、医療法を参照することが多々あることから、今回は、医療法にかかわるお話しをしたいと思います。
2.医療法は、病院・診療所の設置(経営)主体として、医療法人という器を用意しています(医療法第39条第1項)。
ここでいう設置(経営)主体というのは、各種の権利義務関係の起点・終点となる者という意味であり、直接医療サービスを提供する者(医師・歯科医師)という意味ではありません。
例えば、契約であれば契約の当事者、監督官庁との関係で言えば処分の名宛人が誰か、ということです。
実務上、診療契約は、医療機関と患者との間で締結されていると理解されていますが、医療法人の場合は、医療法人と患者との間で診療契約が成立し、医療法人が診療契約から生じる義務を負うこととなり、個別の医師は、その義務を履行するためのいわば手段ということとなります。そのため、医療法人が運営する診療所・病院の診療契約に関し、患者から訴えられる場合、医療法人が名宛人(被告)とされることとなり、医療サービスの提供に直接携わった医師が契約責任を問われることはありません。もちろん、個別の医師は、契約責任ではなく、不法行為責任を問われることはありえます。
3.見渡せば、医療法人との名称がついた医療機関がそこかしこにあります。普段は気づかなくても、処方箋や、領収書をよく見れば、医療法人と書いてある場合もあるはずです。
ところで、医療法人には、社団タイプと財団タイプとがあります。社団は社員(人)の集まりであり社員総会において重要な意思決定をします。財団は財産の集まりで、ただ財産だけでは重要な意思決定をすることはできませんので、代わりに評議員が行います。
医療法人の場合、社団タイプに「医療法人社団」と、財団タイプに「医療法人財団」との名称を付すのが通例ですが、この医療「法人社団」、医療「法人財団」という呼び方は、医療業界特有なように思います。少なくとも、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律が制定される前の民法は「社団法人」「財団法人」と定めており、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律制定後も、この法律名を見ても明らかなとおり、引き続き「社団法人」「財団法人」と呼んでいます。
社団形式の法人だから「社団法人」と、財団形式の法人だから「財団法人」と呼ぶのは自然な用法なように思いますし、他の法律においても、「法人」が最後にくるのが通常ではないかと思います。もっとも、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律を除き、医療法人以外に、社団・財団両方ある法人形態というのはないのかも知れません。
4.ではなぜ、医療業界では、医療「法人社団」、医療「法人財団」との名称を付すのが通常の用法となっているのでしょうか。少なくとも、医療法は、「医療法人社団」「医療法人財団」といった呼び方はしていません。「社団たる医療法人」「財団たる医療法人」といった呼び方をしているだけです(医療法第44条第2項等)。ですので、これらを「社団医療法人」、「財団医療法人」と呼んでもよかったはずです。
厚生労働省が作成しているモデル定款・モデル寄付行為の影響かと思って見てみたところ、少なくとも現在のモデル定款・モデル寄付行為上は、「本社団は、医療法人〇〇会と称する。」「本財団は、医療法人〇〇会と称する。」とされており、むしろ、社団・財団の用語がありません(なお、医療法人において、「〇〇会」と命名されている例が非常に多く、これもまた、医療業界特有の法人名の付し方だと思っていますが、こちらに関しては、モデル定款にならってそのように命名されているのではないかという推測はたちます。しかしながら、医療法上、「〇〇会」との名称を付すことは求められていません。)。
5.ひるがえって、医療法上は、医療法人の名称に、「医療法人」と入れるべき義務の定めがありません。医療法人でない者が、その名称中に、医療法人という文字を用いてはならない、とされているだけです(医療法第40条)。
これは、一般社団法人や一般財団法人であればその名称に一般社団法人または一般財団法人という文字を用いなければならないとされ(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第5条)、会社であれば、「株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社の種類に従い、それぞれその商号中に株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社という文字を用いなければならない」とされている(会社法第6条第2項)こととは対照的です。
ですので、極端な話、「小川町会」といった法人名称でも、少なくとも医療法上、定款・寄付行為の記載事項として問題はなく、医療法人の設立が都道府県に認可されれば、組合等登記令に基づき、医療法人設立の登記もできる、ということとなります。
しかしながら、法人が、いかなる法人であるかを自身の名称において明らかにするのは、当然のことだと思います。法人と取引を行おうとする者からすれば、自身が取引しようとする相手方が、いかなる法人形態の者であるかは、基本的かつ重要な関心事です。社団と財団の違いも同様に思います。
6.なお、医療法が、病院・診療所の設置(経営)主体を限定していないことから、一般社団法人または一般財団法人でもって、病院や診療所の開設許可を受けることもあるようですが、この場合はいかなる法人形態であるかが名称から一義的となります。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律が施行されるまでは、事実上、医療法に基づく医療法人のみが、法人としての医療機関の設置(経営)主体となりえたわけですが、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行後は、医療法人と一般社団法人・一般財団法人との規律の不均衡が目立ち始め、医療法人が一般社団法人・一般財団法人を後追いし始めたためか、医療法における医療法人に関する既定は、肢番(〇条の〇の〇)だらけになってきているだけでなく、結局は一般社団法人及び一般財団法人に関する法律を準用し始めています。よい部分を取り入れようとすること自体はよいことだと思うのですが、医療法人を利用する者にとって、分かりづらい法律となっていないだろうかと思う次第です。
ケルビム法律事務所
弁護士 村田 和績