死は、誰にも平等に訪れます。もっとも、その死が、いつ訪れるか、誰にも分りません。
「死」が訪れると、それまでの生活関係・人間関係はどうなるのでしょう。これらの関係を定めるのが「相続」です。
死の時点での財産が「遺産」であり、「遺産」の引継ぎ・分配が「遺産分割」です。
これらは、亡くなる本人が何も意思を表示していなくても、法の定めに従って、行われますが、
自分の意思のよって、あらかじめ定めることもできます。これが「遺言」です。
当事務所によく寄せられる「相続関連(遺言・遺産分割)」についてのご質問と回答をまとめました。
その他、ご質問やご不明な点などございましたら、お電話にてお気軽にご相談ください。
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Q.
相続人がいなくて困っている
マンションの管理組合の理事をやっていますが、先日、マンションの区分所有権者である○○号室のAさんが亡くなりました。Aさんには相続人がいないようで、以後、管理費や修繕積立金を誰に支払ってもらえばよいのかわかりません。
しかしながら、父親と母親が結婚していない場合、上記の推定(いわゆる嫡出推定)は働きません。したがって、子は、父親に対して、嫡出子たる身分を取得するために、認知を求めることができます。もし父親が任意に認知の届出をしてない場合には、子や法定代理人である母親は、認知の訴えを提起することが出来ます。この場合、訴訟に先立って、調停が行われることとなります。父子関係が明らかになれば、実際に子の監護をしている母親は、父親に対して、監護費用(いわゆる養育費)を請求することが出来ます。また、子は、父親が死亡した場合の相続人となります。
そして、Aさんの遺産から発生した債務については、相続財産法人が支払う責任を負うこととなります。つまり、Aさんの区分所有権から生じた管理費等も、以後は相続財産法人が支払う責任を負うこととなります。
しかしながら、相続財産法人は、法人のために行動してくれる者がいなければ、債務の弁済をすることが出来ません。
そのため、相続財産法人の債権者である管理組合は、Aさんの住所地を管轄する家庭裁判所に、相続財産法人の代理人として行動する相続財産管理人の選任の申立を行う必要があります。相続財産管理人選任後は、相続財産管理人に対して管理費等の請求を行っていくこととなりますが、この間、相続財産管理人は、Aさんの区分所有権を、換価のため他人に譲渡することもありえます。その場合、管理組合は、新たに区分所有権を取得した人に対しても、未払管理費用等を請求することができます。
Q.
私の法定相続分はどのくらい?
先日、私の弟Bが亡くなりました。私の弟は結婚していますが、子どもはいません。また、両親や両親の親も全員他界しています。弟には、私を含めて、弟から見て、兄(私)姉、妹の3人の兄弟姉妹がいます。なお、妹は、父の再婚相手との間で生まれた子です。
相続が発生した場合に、誰が相続人であるかとともに、各相続人の法定相続分がどの程度であるのかも重要となります。
法定相続分とは、各相続人が、亡くなられた方(被相続人)の遺産に対して、どの程度の割合で相続するかを明らかにしたものです。もちろん、遺産分割協議を行った結果、法定相続分とは異なる割合での遺産の分割も可能です。その意味では、多くの場合、法定相続分とは、遺産分割協議における議論の出発点を提供してくれるものということもできるかもしれません。なお、法定相続分と似た名称のものとして、具体的相続分というものがあります。
これは、亡くなられた方からの生前贈与や遺贈を受けていた相続人がいる場合や、相続人が亡くなられた方に対して特別の寄与がある場合を考慮した上で、最終的に各自の相続人に認められる相続分のことをいいます。法定相続分が、身分関係に基づき一律に決まるのに対して、具体的相続分は、個別の取引等を考慮したうえで決められることとなります。
法定相続分の割合については、民法900条が定めています。
今回の場合、Bさんには、配偶者である妻がいますが、子どもはいませんし、両親や祖父母もすでに他界しています。したがって、Bさんの直系尊属は全て亡くなられていると思われます。したがって、民法900条1号、2号は関係がなく、3号が適用されることとなり、妻の相続分は4分の3、兄弟姉妹の相続分は3人併せて4分の1となります。
そして、民法900条4号は、兄弟姉妹が数人いるときは、各自の相続分は相等しいものとしつつ、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の場合は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1としていますので、今回の場合、兄(私)と姉と妹の比率は、2:2:1ということとなります。結局、Bさんの遺産の4分の1に、7分の2を乗じた、14分の1が兄(私)の法定相続分ということとなります。
なお、亡くなられた方(被相続人)が遺言書を作成しており、その中で、法定相続分とは異なる割合での相続分の指定をしている場合(例えば、「妻に全財産の8分の7を相続させ、残りを兄弟姉妹に相続させる。」)、その指定相続分が優先されます。なお、この相続分の指定は、各相続人の遺留分を侵害してはならないこととなっています。
Q.
遺産分割の話合いがまとまらない…。
弟と同居していた母が亡くなり、弟との間で母の遺産の分割について話合いをしていましたが、弟は、母の遺産は全部自分が相続したいと言い、話がまとまりそうにありません。どうすればいいのでしょうか。
また、私は、母親の自宅にあった壷(時価1,000万円相当)も母親の遺産ではないかと弟に問うたところ、弟は、壷は自分が購入したものであると主張しています。しかしながら、弟には、そんな高価な壷を買うお金はもっていなかったはずです。この壷も遺産に含めて遺産分割を進めることはできるでしょうか?
遺産の分割につき、話合いがまとまれば、そこで定められた内容で遺産の分割を行うこととなりますが、それが出来ない場合には、裁判所の関与のもと、遺産分割をすることが出来ます。遺産分割の話がまとまらない場合、相続人は、相手方である他の相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に、遺産分割調停の申立てを行うこととなります。調停も、遺産分割協議と同様、相続人間の話合いのもとで合意を目指す手続です。
しかしながら、単なる話合いとは異なり、裁判官である家事審判官及び民間の家事調停員からなる調停委員会の関与のもとで話合いがなされます。調停でも話合いがまとまらない場合、調停は終了し(いわゆる、不調)、審判へと移行します。このとき、家事審判官が、各相続人から出された主張や証拠をもとに、具体的な遺産分割の内容を定めることとなります。
上記の遺産分割審判では、相続人間において、遺産であることに争いのないものについてはもちろん、争いのあるものについても、それが遺産の範囲内なのかどうかを含めて審判をすることができます。したがって、「私」としては、遺産分割調停・審判において、この壷が母のものであることを主張・立証していくことは可能です。
しかしながら、ある財産が遺産であるか否かは、本来的には、民事訴訟において解決されるべき事柄であるとされており、仮に審判の内容(壷は弟のもの)と民事訴訟における判決の内容(壷は母の遺産)とが齟齬した場合、判決の内容が優先されることとなります。したがって、壷が誰のものかにつき、「私」としては、民事訴訟を提起して、壷が母のものであることの確認を求める必要があることもあります。
Q.
遺言を残したい!
私がいなくなってからも、妻が生活に困らぬよう、なるべく妻に手厚く財産を遺言で残したいと思います。どのような方法があるでしょうか?
(1)普通証書遺言
遺言者が、その全文、日付及び氏名を自署し、これに印を押す方式。
(2)公正証書遺言
公証人と証人2人立ち会いの下、公正証書の形で作成する等の方式。
(3)秘密証書遺言
遺言書自体は遺言者自身で作成しますが、その後、公証人と証人2人以上立ち会いのもと、封紙を遺言者が証書に署名押印する等の方式。
(4)その他特別の方式による遺言
死亡の危急に迫った場合、伝染病隔離者、在船者等、特殊な状況にある場合にのみ利用できる方式。
以上のうち、②の方式が、最も厳格かつ安全な方式といえます。公正証書の内容を専門家である公証人が確認してくれますし、公証人が所属する公証役場にて、遺言を記載した公正証書が保管されるからです。また、公正証書遺言の場合、亡くなられた後に、家庭裁判所における遺言書の検認手続を行う必要もありません。
①の方式は、もっとも簡易な方法と言えますが、亡くなられたのちに、当該遺言書が本物であるのかどうかが争われるおそれが、公正証書遺言に比して、大きいと言えます。他方で、公正証書遺言の場合、本人確認等手続が厳格なため、実は遺言者が認知症等の理由で遺言能力がなかった等の特別事情がない限り、有効な遺言と扱われるため、安心です。
また、②と③の方式は、公証人の関与が必要なため、利用手数料がかかります。
このようなときに、妻以外の相続人がいた場合、他の相続人が、遺留分を侵害されたとして、遺留分減殺請求権を行使してくる可能性があります。そうすると、遺言者としては、自分の死後、妻の平穏な生活を企図していたのに、相続争いが生じ、妻に大きな負担を課してしまうおそれがあります。また、遺言者が希望する遺産の分配方法についても、遺言書の文言次第では、意図していなかった結果を生じさせることもありえます。そのため、遺言書の作成に際しては、そもそもの遺言書の内容をいかなるものにするのかが重要となりますので、その際は、法律家による助言、または法律家にて遺言書を作成するなどの作業を検討されることをお薦めいたします。
遺言の内容を実現するために、あらかじめ遺言書のなかで、遺言執行者を選任することができます。遺言内容の円滑な実現のためには、信頼できる方に遺言執行者を引き受けてもらうこともまた重要です。
Q.
遺言書を見たら私の相続分がゼロでした。
父が亡くなってから数日して、兄のEから「遺言書が見つかった。」との連絡が入りました。公正証書遺言のため、そのまま開封して中身を見てみたところ、「全財産をEに相続させる。」と記載されてしまいました。私は、父から何も相続できないのでしょうか?
(1)遺言者は、遺言において、自身の財産を自由に処分できることが原則ですが、民法は、かかる自由に対する一定の制限をしています。
それが、遺留分の制度です。民法は、亡くなられた方の兄弟姉妹以外の相続人に、一定程度の相続分を保障しています。相続人が直系尊属のみの場合、被相続人の3分の1が、それ以外の場合(配偶者や子)の場合は2分の1が、遺留分ということとなります。
(2)遺留分減殺請求
遺言によって遺留分の侵害を受けた相続人は、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年以内に、遺留分減殺請求権(いわば、遺留分を侵害する行為を減殺することのできる請求権、という意味です。)を行使しないと、当該権利は消滅してしまいます。また、相続の開始のときから10年を経過したときも同じです。
そのため、遺留分減殺請求権を所定の期間内に行使したことの証拠を残すため、内容証明郵便を利用することが推奨されます。遺留分減殺請求権を行使したにもかかわらず、相手方相続人が応じてくれない場合は、遺留分減殺請求訴訟を提起する必要があります。他方で、遺留分減殺請求に応じてくれる場合は、あえて訴訟を提起するのではなく、かかる遺留分減殺請求を加味して、あらためて遺産分割協議を行うということも考えられます。